【息もできない】 (レビュー)
◆韓国の俳優ヤン・イクチュンによる初監督作品。趣味や思い入れなどを排除すると、今年3本に入るであろうパワーを持っている作品。
父親が母親を怒鳴り殴ることが日常だった幼少時代。成長した子供たちは崩壊した家族を背負って、やはり暴力の世界で金を稼ぐことになり、現役を退いた親への憎しみを抱いて生きている。世代間で連鎖していく「暴力」と「貧乏」。そんな家族問題のもどかしさの中で主人公2人の世界が過去の回想を交えながら同時進行し、いろいろな時と場所で接点が生まれていく。2人の出会いは互いに少しずつ影響を与え、そこに奇妙な連帯感とやさしさが芽生え、やがて絶望と希望に繋がってゆく。
「自分の中のもどかしさを、ただ吐き出したかった」と製作のきっかけを語る監督ヤン・イクチュン。彼自身が育ってきた環境や家族との間に抱えてきた問題、それらを作品の中心に据えて製作された本作品。脚本完成後もなかなか資金が集まらず、撮影開始後も資金が足りずに監督の自宅を売却して撮影を続けたとのこと。撮影時は脚本の読み合わせもリハーサルもなく、本番ワンテイクのみという撮影スタイルが取られている。また全編を手持ちカメラで撮影しており、編集はヤン・クイチュンが自ら手がけている。
ストーリーの大きな流れだけを追うと全てが定石どおりで、物語が始まってすぐに結末が想像できてしまうほどだ。それでも物語にひきつけられ、緊張感を保ったまま最後まで観られてしまうのは、脚本構成の巧みさと役者の魅力、そしてそれ以上に監督の熱意が作品全体を支配しているからだろう。それこそがこの映画の力強さなのだろうと思う。
作品の内容に直接関係ないところで気になったのは、チラシデザインなどのメインアートをはじめとする宣伝の方向が、やや恋愛的要素を前面に押し出しているように感じられることだ。最初にチラシを見たとき「ピンク色なんだ」と少し驚いてしまいました。このメインアートは作品オリジナルなのか、日本独自のデザインなのかは分かりません。また「二人でいる時だけ、泣けた。愛を知らない男と、愛を夢見た女子高生。傷ついた二つの魂の邂逅。」というキャッチコピーも、確かにそのとおりなんだけれど、何かむずがゆいというか、作品の地表から数センチ浮いている気がしてしまいます。でも「Brethless」という英語題からの「息もできない」という日本語題は素敵なタイトルだと思います。
先にも書いたとおり、この作品はヤン・イクチュンの中にあった「もどかしさ」を多大な熱意と私財を投入して製作されている入魂の一作です。これほどの力強さを持っている作品は一年間にごく数本しか巡り会えません。映画として本当に良い作品だと思います。(栗栖)
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