【フェリックスとローラ】

ミラーボールがきらめく場末のナイトクラブ。ジャケットを脱ごうともせず、座席についたひとりの男が、ステージ上で憂愁に満ちた歌声を聞かせる歌手を凝視している。“…外で野ウサギがメスを追いかける/皆が外に飛びだしていく/俺は隠れ家に火を放ち、孤独を捨てる…”思いつめたような眼をした男は、おもむろに銃を取り出すや、舞台上の歌手に向けて発砲する。騒然となるナイトクラブ。そして彼は屈強な男たちに取り押さえられる……。その男、フェリックス(フィリップ・トレトン)は、移動遊園地のオーナーだ。バンパー・カーのチケット売り場に座り、お祭りの喧騒を楽しむお客たちの姿を眺めている。フェリックスは、仲間たちからの信頼も厚く、引っ張りだこだ。とはいえ、「トースターを修理してくれ」とか、「シェイバーはどうなってる?」とか、修理屋の腕を買われている面もあるのだけれど。しかし仲間たちの誰もが、30歳をとっくに過ぎたフェリックスに、私生活での幸福が来ることを、ひそかに願っているのだった。これまでにちょっとした恋の経験はあるフェリックスだが、移動に次ぐ移動がつきもののこの仕事では、生涯のパートナーを見つける機会には、そうそう恵まれないからだ…。

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